【蜷川実花×編集長 小脇美里】スペシャル対談
2020 年は、これまでの⽣活や価値観が⼤きく変わる出来事がたくさんありました。その中で、⼥性の経済的⾃⽴がどれだけ重要なことであるかを感じた⼩脇が、ママになっても社会とつながる⼤切さを伝えるためにスタートしたMOTHERS編集部。
写真家・映画監督の蜷川実花さんと、MOTHERS 編集部 編集⻑⼩脇美⾥のスペシャル対談後編では、「⼥性の経済的⾃⽴、⼥性としての⽣き⽅」について語り合います。
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⼩脇:実花さんは、⼦どものころからお⽗さまである蜷川幸雄さんから「⼥性の⾃⽴」について聞かされていたんですよね。
蜷川:「三つ⼦の魂百まで」ではないけど、⽗からは、まるで呪いの⾔葉のように「精神的にも、経済的にも⾃⽴せよ」と⾔われ続けてきました。だから、私には、経済的に⾃⽴して⽣きる以外の選択肢がなかったし、その教えは私の⼈⽣のいろんな場⾯に影響していると思う。
⼩脇:⼥性の経済的⾃⽴は、精神的⾃⽴にもつながるのでとても⼤事なことだと思うんです。そして、そのことを実花さん⾃⾝が様々な場所で発信されていますよね。
蜷川:決して、専業主婦を否定しているわけではないんです。でも、例えば経済的に⾃⽴していないと離婚したくても決断しにくかったりするじゃない? それは物理的な問題としてね。それに今の時代、旦那さんがずっと経済的に安定しているとは限らない。だったら、⼥性も経済的に⾃⽴しているほうがよくないですか? という当たり前のことを、あまりに誰も⾔わないから、私が⾔わなきゃな! と思っていた時期はすごいあります。
⼩脇:当たり前のことを誰も⾔わないというのは、社会にとってはすごく⼤きなロスですよね。
蜷川:今ってすごく難しくて、例えば私が何か⾔葉を発するとき、そこに誰かを否定したり、傷つけたかったりする気持ちは1mm もないんだけど、他意なく誰かがイヤな想いをすることって本当にあるんだなと思うんですよ。私はずっと⼥性の応援をしているつもりでいるけど、とにかく⾔葉が発しづらくなっている。そればかり考えていると⾔葉がどんどん丸くなって、本当に伝えたいことすら伝えられなくなる気がするだけど。⼥性を応援する⽴場として、⼥性が経済的に⾃⽴していたほうが選択肢は広がりますよねということは伝えたいです。
⼩脇:今回、MOTHERS 編集部のデスクメンバーには、ずっと専業主婦だったけど、⾃分が得意なことをSNS などで発信したことで仕事になった⼈、経済的⾃⽴ができた⼈がたくさんいるんです。今の時代は、昔のように家の外に出て、会社でバリバリ働いて、⼦どもを預けて仕事をするという働き⽅ではなくても、家にいて空いた時間を使ってスマホ1つで外と繋がって、仕事が成り⽴つということもあるんだよということを、⼦どもがいるから働けないと諦めている⼈たちにも伝えたいなと思っていて。私もそうですが、⼦どもが⽣まれたからこそ新しいビジネスを⽣み出している⼈もたくさんいるんですよね。そういった様々な「働く⺟像」をMOTHERS 編集部では選択肢の⼀つとして、伝えていければと思っていて。
蜷川:働き⽅も、⼦育ても「こうあるべき」に当てはまらない時代になってきているよね。
⼩脇:実花さんの過去のインタビューを⾒ていると、今でいう「ジェンダー教育」を早い段階から受けてきているなと思うんですが、ご⾃⾝ではどう感じていますか?
蜷川:うちは5 歳まで専業主夫だった⽗に育てられて、当時は⺟のほうが稼いでいたから、その時点でいろんなことが⼀般的な家庭とは違っていたので「⼥性だから、男性だから」という考え⽅がない世界で育ったと思います。
⼩脇:でも実花さんの作品を拝⾒すると、⼥性を圧倒的にいつも応援したり、奮い⽴たせてくれたりするものが多いと思うんですが、実花さんは⼥性に向けて伝えたいことが多かったりするんですか?
蜷川:⼥の⼦のお⼿伝いはしたいと思うし、うちは⼆⼈とも息⼦なので、⼥性が社会にでていくためのちょっとした秘訣とかを⾃分の⼦どもに伝えられないから、もったいないなと思って(笑)。そのノウハウを若い⼥性に伝えていきたいという気持ちはありますね。
⼩脇:⼀般的には、⼥性を応援するということ=「⼥性VS 男性」という形になってしまうことがあると思うのですが、実花さんにはそういう部分全くないですよね。むしろ、すごくかわいらしい部分もあって、男性も⽴てている感じがするんです。
蜷川:私⾃⾝、元々抜けている部分があるというか、周りの⼈たちにお世話をしてもらってなんとか⽣きているみたいな⼈だから、男⼥問わずね。基本的に誰かに助けてほしいという気持ちが強いんだと思う(笑)。
⼩脇:確かに! その隙みたいなものがかわいらしいと感じる部分なのかも。
蜷川:ありがとう〜。直接知ってくれていたらそう感じてくれる⼈もいるみたいだけど、どうしても強い⼥というイメージで⾒られがちなのは、困ったなぁ〜と思っているけど(笑)。でも基本的には⼥の⼦の応援をしたいって思っているから、男の⼦は⼤前提として好きだけど、⼥の⼦のことをえこひいきしちゃう部分はあるかも。男の⼦は⾃分でがんばって! って後⽅から応援していて、⼥の⼦はすぐ隣でずっと応援してあげたいって感じかな。
⼩脇:「男⼥平等」について、実花さんはどう考えていますか?
蜷川:まず⼤前提として、すごく難しいことだなって思っていて。男⼥が完全に平等であるというのは理想ではあるかもしれないけど幻想というか、現実問題としてそうじゃないということは知っておいたほうがいいと思うんです。私が常に思っているのは、男⼥平等に限らず「世界は圧倒的に不平等」であるということ。例えば、モデルになりたい⼦が、⾝⻑が低くて悩むとかね。それと同じようなことが、形を変えてそこかしこで起きているわけですよね。みんな平等であると思ってスタートするから苦しくて、しんどくなる。でも、そもそも世の中は不平等だし、決してユートピアではない。その中でどう⽴ち上がって、⽴ち向かっていけるか、⾃分を⾒失わずに⽣きていけるかっていう芯の強さを持つことが最重要で。それができたら、⾝⻑が低くたってモデルになっている⼦も今はたくさんいますよね。
今の世の中はすごく混沌としてノイズがあって、全て受け⽌めていたらしんどすぎる中で、どう⽣きていくかが⼤事だなと思っている。
⼩脇:以前、実花さんがインタビューで「⼤事なのは情報に惑わされないこと」とおっしゃっていて。それが今、本当に⼤事なことだなと改めて感じています。いろんな情報を⾒て学び、そこから何を選ぶか。“お⺟さん”という⽴場になった今、それはダイレクトに⼦どもにも影響することだなと思うので、情報の選び取り⽅というのはすごく重要かなと。
蜷川:まさにそうだよね。私は基本的にテレビを⾒ないんだけど、⾃分が良質だと思う情報をインプットした後にあえてテレビを⾒て、⾃分はどれだけ「マス=⼀般的」なところから感覚ずれているかというのを考えるようにしていて。今は、本当に情報が⼆極化しているし、情報の取捨選択がどんどん難しくなっている気がして。その中で、マスメディアと呼ばれる情報源と、⾃分の感覚のずれの修正をしなくてはいけないと感じることは多々あります。
⼩脇:だからなんですね! 実花さんの⾔葉ってすごく尖っているけど、多くの⼈に寄り添っている部分が強いなと感じることがあって。幅広い視野で、いろんな知識を得た上で発⾔をしているからすごく刺さるんですね。
蜷川:それはそうかも。だってさ、「ニューノーマル」なんて⾔っている⼈なんて実際はごく⼀部だし、リモートワークができている⼈もそんなにいないのが現実。写真は写真を好きな限られた⼈が⾒る世界だけど、それが映画になった途端に分⺟が広がったわけですよ。そうなったときに、世間⼀般の⼈が何を思って⽇々⽣きているのかということを私はあまりにも知らな過ぎるということに気付いて、それはよくないなと思って。
⼩脇:そう感じたのはどんなときですか?
蜷川:もともとそこのずれは気を付けていたんですが、これはいよいよまずいと思ったのがコロナのとき。私のまわりには誰⼀⼈困っている⼈がいなかったのね。すごく⼤変ではあるけど、世界が⼤きく変わる瞬間に⽴ちあっていることに、じゃあこれから何しようって前向きに捉えているような⼈ばかりだったんです。それを⾒て、「これはズレてるな」と思ったから、視野を広く持つためにも、オンラインサロンを始めました。なんかね、「分かる⼈だけ分かればいい」という感覚が私は嫌いなんですよね。すごく。
⼩脇:わかります。だから実花さんの作品って、こんなにたくさんの⼈に⽀持されてるんだろうなって思います。私は、⾃分が普通すぎることに編集者時代からコンプレックスを抱いてきたんですが、最近「普通」であることって⼤事なんだなと思うことが増えました。
蜷川:すごく必要なことですよ。普通であることをちゃんと語れる⾔葉を持っていることってとても重要。普通であることを語るってすごく難しいんですよね、実は。だから美⾥ちゃんの存在ってものすごい重宝されるっていうか、いろいろと私も教えて欲しいもん!
⼩脇:私、実花さんの本(「オラオラ⼥⼦論」祥伝社/2012年発行)の中にある「⼥性は、30 代から1.3 倍優しくなったほうがいい」という⾔葉にすごく共感したんです。きっとこれも、男⼥で分けているので今の時代ではタブーになる⾔葉なのかもしれないけど、でも現実を⽣きている30代の⼥性として納得できる⾔葉だなって。そういうことはもっとたくさん知りたいなと思います。
蜷川:私、今⽇こうして話していてわかってきたんだけど、内にあるグツグツしてる情熱みたいなものは全然変わってないんだけど、過去の⾃分の発⾔を⾒ると「よくそんなことを⾔ったな」と思う(笑)。そのくらい、今って本当に発⾔しにくいですね。例えば、「⼥性が1.3 倍優しくする」と⾔えば、同時に「なんでそんなことを⼥性ばかりがしなきゃいけないの」っていう反応がくることがすぐ思い浮かんじゃう。
もちろん私だって、なんで⼥の⼈だけが?! って思うけど、でも現実問題としてはそうすることによって⾃分の気持ちにも余裕ができたりとか、仕事においてはスムーズにいくケースが多いのも体感として知っているんだけどね。でもこの⾔葉を⾒た誰かが傷ついたり、違和感をもったら嫌だしなって考えだすと、なかなかビシッと⾃分の想いを⾔いづらい世の中になっていて。それが良いことなのか悪いことなのかもわからないくらいみんなイライラしているし、その⾔葉の本質的なことを掴むより、揚げ⾜取りな世の中になっているよね……。でも、⼥性のために必要なことは、これからも作品を通してでも発信しつづけたいな。
「40代になったら解き放たれることがたくさん」可能性も広がる!
⼩脇:40歳になることを控えている私にとって、40代ってまだ未知の世界なんですが、実花さんを⾒ていると40代って楽しそう! まだまだやりたいことができそう! と感じます。
蜷川:私、40代になったときに、「やりたいことを全部やろう」って決めたの。30代までは⾃分の⾒え⽅とか、⾃分の場所取りというかブランディング的なことをやってきていたけど、40 歳になるときに、求めてもらえることで⾃分ができそうなことはプライドもなく、全部やったほうが⾯⽩いんじゃないかって思えるようになって。例えば、80 歳まで⽣きるとしたら、そろそろ折り返しだし、もっともっとやりたいことをやろうと思ったら楽になったの。まぁ、それまでも散々やりたいことをやってきたんだけど(笑)。写真家であることに囚われていた時期もあったから。
⼩脇:えっ!? 実花さんが写真家であることに囚われていたんですか?
蜷川:そう(笑)。⼈それぞれの悩みってわからないものでしょ? 映画監督って⾔っても、2 本しか撮ってないし……とか、いろいろ私なりに悩んだことがあるの。でも、やりたいことをやろうと思った瞬間に、逆に柔らかくなったのかもしれない。あと、第2 ⼦が⽣まれて、ものを創る⼈間として、内側に抱えていた怒りが収まったというか、あらがわなくなった。
⼩脇:⼀⼈⽬と⼆⼈⽬育児はやっぱり違いますか?
蜷川:⼀⼈⽬のときは、お⺟さんであることによって表現が変わるとか、「顔が優しくなった」なんて⾔われたら、クリエイターとして終わりだ! 尖っていないとダメだ! という気持ちがあったの。でも⼆⼈⽬は、どうせすぐ⼤きくなるのがわかっているから、デレデレにかわいがっているし、「あ、私お⺟さんでーす♡」という気持ちでいる(笑)。⼀⼈⽬育児のときは、⾃分の中で「こうでなければいけない」というのが今よりあったのかもしれない。昔の本とか読み返すと、当時の⾔葉にはエッジがきいてるもんね。必ずしもそうしなくていいとなったときに、ゆるやかで優しい、柔らかい⼈間になったのかもしれないな。でもその結果として、やることも、やれることも増えて可能性も広がっていった
のかも。
⼩脇:⼆⼈のお⼦さんを育てている中で、実花さんが続けていることってありますか?
蜷川:⼦どもの写真を撮って、アルバムを作っています。もう写真は数え切れないくらいプリントアウトして毎年アルバムにしているから、彼らは結婚するときにはとんでもない量のアルバムを持っていくことになると思う(笑)。毎⽉作っているからね。きっとそれは⼦どもたちに愛情として伝わると思うし、世の中のお⺟さんたちも⾃分にできることで⼦どもに愛情を伝えていけばいいと思うんです。⼦どもは、愛された記憶さえあれば⼤丈夫。これは、親としてというよりも愛情たっぷりで育った⼦どもの⽴場として⾔える。
⼩脇:この対談を通して、実花さんが愛情深く育ったことも、愛情深く⼦育てをしていることもすごく伝わってきました。最後に、実花さんの座右の銘は、「かっこよく⽣きる」だったと思うのですが、今、改めて⺟として、40 代の実花さんとして聞かれたらなんですか?
蜷川:今は、Netflix で配信中のドラマ『FOLLOWERS』の中でも伝えた「汝の道を進め、そして⼈々をして語るに委(まか)せよ」。⼰を信じる⼒が、これからの時代さらに最重要になっていくと思っていて。情報に踊らされないもそうですし、とにかく思考を⽌めず、⾃分の頭で考えて、決断して、⾃分で⾃分の未来をしっかり作っていく。なんだか⼤きなことのように感じるかもしれないけど、昨⽇よりちょっとアップデートした⾃分がいたらいいのではないかなと思っています。でも今回インタビューを受けて、改めて私はだいぶ「こうでなくてはいけない」というしがらみのような事から解き放たれているんだなって⾃覚しました。
⼩脇:そんな気がします。私はまだまだその域に⾏けていないので、その域に⾏けるように全⼒で頑張ります!! たくさん良いお話を聞かせてもらえました! ありがとうございます。最後に、⼦育て中のママたちへ、実花さんからメッセージをお願いします。
蜷川:⼦育てに関して⾔えば、⼦どもはずっとかわいいよ! 乳児期のママへは、今すごく⼤変でも、あと2,3 年で楽になるから、できるだけ今を楽しんだほうが良い! そして⼦どもは3歳くらいまでが⼀番かわいいとか⾔う⼈もいるけど、そんなことない! 中学⽣になった今も、ずっとかわいいし、ずっと⾯⽩いよ。⼦どものかわいいは更新されていく。あとね、できないことがあったって全然⼤丈夫!! って伝えたいです。
そして、40 代になったら解き放たれることがたくさんあるので、とにかく⾃分の⼈⽣を楽しんでください!
⽂・上原かほり