【蜷川実花×編集長 小脇美里】スペシャル対談
新時代の⽣き⽅を提案するMOTHERS 編集部では、「ママ」であることが、「⼥性のキャリア」の⼀つになるということを発信していきます。
そんなMOTHERS 編集部に蜷川実花さんが登場! 写真家、映画監督として活躍しながら、13 歳、5 歳になる男の⼦⼆⼈のママとしても忙しい⽇々を送る蜷川実花さんと、MOTHERS 編集部 編集⻑ ⼩脇美⾥が「働く⺟として」について語り合うスペシャル対談をお届けします。
>後編「女性の経済的自立、女性としての生き方」はこちら
>スペシャル企画「蜷川実花さんご自宅のお片づけ」編はこちら
⼩脇:実花さん! MOTHERS 編集部の最初の対談企画にご登場いただけて嬉しいです!プロママ中のプロママである実花さんにいろいろとお話を聞けたらと思います。いきなりですが、多忙を極めている実花さんは仕事と育児をどのように両⽴していますか?
蜷川:仕事と育児、そもそも両⽴ができてるいるのか怪しいところなんだけどね……(笑)。私は、写真を撮ったり、映画を撮ったり幅広くいろんな仕事をしているけど、その中で1番⼤変だと感じる仕事はやっぱり「お⺟さん」だと思うんです。改めて⼦育てって本当に⼤変だなって。なのでそれを理解した上で、私は仕事と育児の完璧な両⽴というのは諦めた⽅がいいかなと思っています。
⼩脇:諦める! 確かに、今のママ達は両⽴しようってがんばりがちですもんね。そういう考え⽅を持つってすごく⼤切なことなのかも。
蜷川:そんなことを⾔いながら、私、毎朝5時半起きでお弁当を作ってます。「なんで、お弁当を買わないんですか?」とか、「プロに頼まないの?」と聞かれることがあるけど、「作ってあげないとかわいそう」という“⼿作り幻想”にとらわれているところがいまだにあるんだと思う。私ですらそうなんだから、そういう幻想にとらわれているお⺟さんって、たくさんいるんだろうなとは想像できるんです。なので、まず基本的には「全部をちゃんとやらなくてもいいよ」っていうのを伝えたいなと思っていて。
例えば、今はお弁当を作っているけど、その⼿作りにはもちろん冷凍⾷品も混ざっていて。できないことは代替えしたり、⼈に頼ったり。
全て⾃分⼀⼈でやらなくていいとか、⼿を抜いていいんだよっていうことを伝えたいです。
⼩脇:実花さんが、2013年に出した「MAMA MARIA(ママ・マリア)」(光⽂社)というムック本で紹介されているキャッチコピーには、「⺟って⼤変だけど、たのしくやろうよ!」とか、「仕事は⾃由への翼」「⼦育てはキラキラとボロボロの繰り返し」といった、⼦育て中のママが共感できる⾔葉がたくさんありますよね。
蜷川:「MAMA MARIA」は、⾃分で⾔うのも……だけど、良い本でしたよね(笑)。
⼩脇:今、⼦育てしているママたちに⾒てほしい! って思います。ママって⼤変そうだなと思っている⼈たちって、すごく多いと思うんです。もちろん⼈の命を預かって、育てているわけだから⼤前提として⼤変なのは当たり前なんだけど。メディアなどで⼤変ということを煽りすぎているよう⾵潮も感じていて……。これからママになろう! って⼈たちが、ちょっと引いちゃうんじゃないかなという気がしたり、⼤変と刷り込まれすぎていて本当は楽しめることも、⾟いと感じちゃうんじゃないかなと⼼配で。
最近よく「⼩脇さんを⾒ていると、なんか⼦育てが楽しそうに⾒える」と⾔われて、その時に個⼈的に話している楽しみ⽅とか、気持ちの持ち⽅などをこのMOTHERS 編集部で伝えていけたらいいなと思っていて。でも、実花さんも⼦育ては楽しいよ、⼦どもはかわいいよという発信が多いですよね。
蜷川:私は、⼦育てって楽しいことしかないというか、⼤変なことも含めて“⺟でいられること”がすごく幸せだと思ってる。お⺟さんでいることが楽しいし、⼤変なことも振り返れば全て良い思い出になってるなぁと(笑)。もちろん、これは私の価値観だから⺟になる=幸せということが全てではないと思うけど、私にとってはすごく幸せなこと。でも⼀⽅で、今はどうしてもSNS などでキラキラした部分だけをみんなが切り取ろうとするし、そういった情報だけが⽬に⼊りがちで。それを⾒た誰かが「私はこんな⾵にできない」「なんでみんなできるのに私はできないんだろ……」と悩んだりするのは嫌だなと思っているんです。だって私たちって仕事柄、SNS やメディアに出ている、スーパーキラキラしたママに会うことが多いでしょ? でも、実際のリアルな姿はそれこそボロボロの状態で、ねじりハチマキ巻いて気合いれる! みたいな感じで、必死にがんばっている姿も知ってる。だから、私⾃⾝もこんなに部屋が荒れてますよとか、これだけ必死になってやってますよ〜みたいなのをたまに表に出して「みんな同じくドタバタでがんばってるよ」というような、安⼼感じゃないけど、SNS の向こう側にいるママ達のしんどさを少しでも軽くしたいなと思っている。でも、基本的にはやっぱりすごく⼦育ては楽しいって思うから、そこはしっかり伝えていけたらいいなと思っています。
⼩脇:実は私、今年の2 ⽉に仕事をすべてやめようと思っていたんです。専業主婦じゃない⾃分へずっと葛藤があって……。
蜷川:えぇ!! そうなの!? 美⾥ちゃん、すんごい真⾯⽬すぎるところがあるもんね(笑)。
⼩脇:そうなんです(笑)。私の⺟も夫の⺟も専業主婦だったのもあり。⾃分はいつもお⺟さんが家にいてくれて、すごく幸せな環境で育ったと今も感じているので、もしかしたら、仕事を持つ私は⼦どもたちを幸せにできないんじゃないかとずっと悩んでいたんです。どうしても、専業主婦のママと⽐べると⼀緒にいる時間が少ないと、悩んでいる働くママは多いですよね。
蜷川:すごく難しいところだよね。「時間じゃなくて濃さだよ」とか⾔う⼈がいるけど、私もずっと「⼀緒にいられないことも多くて、悪いことしてるな」って思っていたの。でも、うちの⺟があるとき、「実花が⼩さいとき、あまり⼀緒にいてあげられなくてごめんね」と⾔ったことがあって。当時、⺟は⼥優をしていて、幼少期は主に⽗に育てられていたんだけど、本当にびっくりしたの。「え!? 私、そんなこと⼀度も思ったことないよ」って。そのときに初めて、きれいごとじゃなく本当の意味で、「愛さえ感じていれば⼤丈夫。時間じゃないのかも」って思えたんです。⼦どもたちを⾃分に置き換えてみたら、その瞬間に⾃分の中にストンと落ちてきた。そこからは⼀緒に過ごせる時間が少なくても「⼤丈夫だ」って思うようにしてる。それでも「かわいそうなことをしている」と思うことはもちろん今もあるけどね(笑)。
⼩脇:私も悩んだ結果、働くことを選んだので、時間的な部分でしてあげられないことがあることは仕⽅ないと割り切るようにしました。
蜷川:そう。⼦育てってお⺟さん⼀⼈でするものじゃないし、うちで⾔えば、⺟も妹も⼿伝ってくれているし、家の中には事務所スタッフや⼈の出⼊りも多くて、いろんな⼈と交流できる環境ではあるからさみしくないのではないかと思ったりもしてる。
⼩脇:うちの⼦も、保育園に1 歳から通っているんですが、先⽣や、お友達のお⽗さん・お⺟さんとか、⼩さい頃から息⼦を知ってくれ、⼤切に思って⾒守ってくれている⼤⼈が彼にはすでに50⼈以上いるんだなと考えるようになりました。⾃分の⾜りない部分や時間は、他の⼈にカバーしてもらってもいいじゃん! と、やっと思えるようになって。
蜷川:あとはやっぱり、⼦どものためだけの⼈⽣じゃないからね。私たちの⼈⽣でもあるので、そこは折り合いをつけるというか、彼らにも我慢するところは我慢してもうしかない。⼀緒にいる時間は少ないかもしれないけど、愛情だけはしっかりかけるということが、我が家においては良いことであると思い込んでやってます(笑)。
⼩脇:仕事をしていることで⼦どもに我慢をさせてしまっているとかしんどかったエピソードってたくさんあるんですが、逆に実花さんが仕事をしていたからこそ、⼦どもにとってよかったことはありますか?
蜷川:うちのお兄ちゃんはとにかく⼤⼈と話すのが好きなんですよ。対⼤⼈に対して異常にコミュニケーション能⼒が⾼い(笑)。私の仕事柄、⼩さい頃から⼤⼈の⼈と会う機会が多かったからなのか、普通に会話をしてるんです。そういう能⼒や経験は彼にとってすごく財産になっていると思う。「MAMA MARIA」を作った頃って、⼦どもに対して申し訳ないと思っていることを、どうやって⾃分の中から無くせるかということがテーマだったんです。だからこそ、たくさんの⽅に共感してもらえる中⾝になったんだけど、今は、⼦どもに対しての罪悪感が全くないんですよ。私の中に何が起きたの? ってくらい。⼆⼈⽬だからかなぁ‥? 中学⽣になったお兄ちゃんがなんか良い感じに育っているのを⾒て、やっぱり⼤丈夫なんじゃんというのが実証されてきたから、⼆⼈⽬育児は気楽なのかもしれないな(笑)。
⼩脇:そうやって、仕事と⼦育てをしていく中で⼿探りながら辿り着く先ってあるんですよね。
蜷川:仕事と⼦育てをうまくやるのは⼤変なので、完璧にうまくやるということを最初から諦めたらラクだと思う。仕事と⼦育てって、物理的な時間割としてなかなか……難しいなと。私も両⽅100%やるって⾔っていた時期もあったけど、それは無理だなと。もちろんそれくらい、両⽅を取るぞ! って気持ちを持ってやらないと、結局どちらも⼿に⼊らないから、気持ちを持つことは⼤事だけど。仕事と⼦育ての両⽴なんて、できなくても平気だから、とにかく⾃分を責めないでくださいねって今は伝えたい。
⼩脇:確かにそうですよね。最初から両⽴すると思うからしんどくなっちゃうんですよね。最初から無理をしないと決めるというのもすごく⼤切なことなのかも。でも、実花さん⾃⾝は著書の中でも、「無理しないでねって⾔われるけど、無理しないと何にもできない」とおっしゃっていて。それもその通りだよなと納得してました。
蜷川:そうだね、私はやりたいことが膨⼤にあるから、⾃分がやるときは無理ばかりしているけど(笑)。でも、誰かに伝えるときはがんばって、もしだめだったとしても⾃分を責めないでと思っている。少なくとも、仕事or ⼦どもという選択肢ではない世の中になっていくといいなと願っています。
⽂・上原かほり