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2022.03.29

SDGs

子どもにとっての「平和」とは何か #平和ってなんだろう?

日頃から聞かされている戦争の悲劇

「ロシアが戦争を始めた!」と長男(10歳)が、幼稚園から娘と帰宅した私にすぐさま報告した。

私の子ども達にとって、「戦争」は聞きなれない言葉ではない。彼らの先祖である曾祖父母や大叔父たちが広島の原爆で即死し、祖母(私の義母)は9歳にして孤児になり、親せきに育てられたことを、戦争の起こす悲劇として日頃から聞かされているからだ。

「肉親が生きていれば、大学に行かせてもらえたのに、育ての親から、女には学は不要だと言われ、断念せざるを得なかった。本当は兄のような薬剤師になりたかった」。

義母は高校の担任が、自宅まで「大学に行かせてやってほしい」と頼みにくるほど、成績優秀だったそうだ。

「今ある自分に後悔はないけれど、悔しいねぇ。もう二度と、戦争は起さないでほしいね」と義母は言う。そのエピソードを子ども達に繰り返し伝え、平和への願いを受け継ぎたいと思っている。

しかし、家族が戦争の悲劇にあったからこそ、より強く「平和」を願えるのか。実は生物学的には、両親の戦争体験から「平和」を受け継ぐことは、遺伝子の修飾を乗り越えるという大きな壁がある。

戦争のような強烈なトラウマを受けると、遺伝子さえも修飾されてしまい、細胞の記憶として次世代に受け継がれ、さまざまな精神病、成人病をも引き起こしていることが最近の遺伝子研究で分かってきている。

通常は、受精卵の段階で一旦リセットされるはずの遺伝子への修飾が、強烈なトラウマの修飾は消えず、子どもやそのまた子どもにも受け継がれることがあるらしい。生まれたばかりの時に母親から引き離されたマウスは、よりうつ病になりやすく、そのまた子どもにもうつ病の症状がみられたという。

逆に多くの愛情(たくさん舐められて育った)を受けたマウスはストレスに強い。子供を虐待する親の7割が自身も虐待されて育っているように、愛情を十分に与えられなかった子は、ストレスにも弱い。つまり、親から引き継いだ遺伝子の修飾を超越したときに初めて負の連鎖から解き放たれ、「平和」が実現できることになるともいえる。

 

だから私は、プーチン氏の成育歴について調べてみた。プーチンの幼児期については驚くほど情報がなく謎が多く、母親は、プーチン自身が語る母親と自称プーチンの母親の二人いる。

プーチン自身が綴る母親は、第二次世界大戦禍の粗悪な状況で、2歳だった息子(プーチンの兄)が病死、夫は海軍で戦い重症を負った。その後40代で授かった息子プーチンだが、「貧しかったが、母は敵兵士に憎しみを持たず、優しく、愛情深く育ててくれた」と書いている。

片や自称プーチンの母親は20年前突然名乗り出てきており、プーチンは非嫡出子であり、継父から虐待を受けたため祖父母に預けたところ、勝手に前述した両親と養子縁組されてしまったという。前者であれば、どんなに愛情深く育っていても、戦後の貧困体験や、両親から受けついだ遺伝子が修飾されたままだったから、戦争という選択をしたという話になる。

しかし私としては、戦争孤児になっても平和を願う義母の手前、自称母の成育歴の方を信じたくなってしまう。母として、愛が遺伝子の修飾を超えられないかもしれない事実を受け入れたくないからかもしれない。

我が家の平和への取り組み

我々日本人の中でも、第二次世界大戦による悲しい遺伝子の修飾が残っている可能性は大きい。それを超えるために、私の両親がしてくれ、私自身も育児で心がけていることは、「日常的にどうして戦争が起きるのかを考える」、「平和を望む仲間同士で意識を高め合う」だ。

例えば、兄弟喧嘩。「戦争はどうして起きるのか知ってる?」と聞き、「戦争の始まりは兄弟喧嘩と同じ。ちょっとしたことで戦争になる。戦争をやめるのは本当に難しくて、未だに人類は戦争をやめられない。そのたびにお祖母ちゃんみたいな可哀そうな子どもが増えるんだよ」と伝える。飛行機が攻撃されて、戦争映画的に「やった!」となる息子らに、あの飛行機の人にもお母さんがいるんだよ、そう思うと、同じお母さんとして、とっても悲しくなるよ。」と涙ながらに息子たちを抱きしめて伝える。マウスが子マウスに愛を注いだように、この子たちもストレスに強くなれるようにと祈りながら。

我が家の平和への取り組みは「平和を望む人たちの結びつきを強くすること」だ。兄弟同士で取っ組みになっている時、「ガンジーになろう!」と残った一人が仲裁に入り、組み合うのを辞めたりする。そして、どこかでイマジンが流れていると、生意気にも口ずさんでいる。そんな時、平和を望んだ過去の勇者たちともに、世界中の皆が団結して遺伝子の修飾など吹き飛ばしてほしいと祈るような気持ちになる。

高橋 しづこ

帰国子女の産婦人科医師で3児のママ。
自ら絵本を描きながら、いのちを見つめる。

帰国子女の産婦人科医師で3児のママ。
自ら絵本を描きながら、いのちを見つめる。

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