MOTHERS編集部 スペシャルインタビュー《神田 恵実》
2005年に、オーガニックライフの素晴らしさと必要性を伝えたいという思いから「nanadecor」を立ち上げ、衣食住を中心にオーガニックライフを提案している神田恵美さん。ファッション誌の編集者として忙しい日々を送る中で出会ったオーガニックコットンが、神田さんの人生を大きく変えたそうです。働く女性として、母として、今を活躍する女性リーダーとして、今の活動について、今後の目標について聞きました。
オーガニックコットンとの出会いが人生を変えた
――神田さんが「nanadecor」をスタートさせた経緯を教えてください。
15年ほどの前にロハスブームがあったんです。ヨガやサーフィンを趣味でやっていたので、雑誌の企画でもロハスを担当することが多くて、その時にオーガニックコットンと出会いました。実際に触ってみると肌触りの心地よさを実感して、趣味でナイトドレスを作ることにしたんです。当時ちょうど通販雑誌の立ち上げを担当していたので、そこでナイトドレスを取り扱ってくれるということになり、製作をスタートしました。
――オーガニックコットンをナイトドレスにしたのはなぜですか?
オーガニックコットンの肌触りを知ったときに、「この肌触りを感じながら眠ったら気持ちいいんじゃないかな」と思ったのが一つ。あと、当時、かわいいパジャマがあまりなかったんですね。デザイン重視のものはあったけど、眠るということに重きをおいた心地の良いパジャマというのがなかったので作りたかった。私は、アンティークの蚤の市が好きで、小さいころからそういうところを周ってはアンティークのリネンを集めていました。オーガニックコットンの柔らかさは、アンティークの長年使いこまれたコットンの風合いに近しいものを感じたので、そういう要素を組み合わせたら気持ちいいだろうなと思ったのです。
――着心地の良いパジャマを選ぶって、実はあまり大人になってからしたことがない気がします。
しっかりパジャマを着て寝ているという人って、意外と少ないですよね。大人になるにつれて、スエットパンツとTシャツのような部屋着とパジャマが一緒になっているという人も多い。私もそうだったけど、ナイトドレスを着て寝るようになったら、3ヶ月で体の変化を感じました。
――3ヶ月で、どんな変化があったんですか?
フリーランスの編集をしていましたが、当時はとても多忙で。なんだかいつも疲れていて癒しを求めてスパに行ったりマッサージに行ったりしていました。施術を受けた後も疲れすぎて動けないみたいなことがよくあったし、それって根本的な健康ではなく一時しのぎの応急処置みたいなものですよね。それが、パジャマを着て寝るようになってから、深く眠れるようになって疲れの出方が変わりました。私たちは、日々の中で知らないうちに体が緊張しています。それがお風呂に入って柔らかいものに包まれて眠るということで体が緩み、睡眠のスイッチが切り替わってオンからオフへの切り替えができるようになったんです。実際、それを体感した方たちの口コミでナイトドレスが認知されるようになっていきました。
――継続することが大切なんですね。「今日だけ質のいい眠りを!」というのは無理なんですね。
1日、1日睡眠の質をあげていくということが大事。なぜパジャマが良いかというと、人間は五感や肌感覚で感じる機能があるからなんです。実は、肌っていろんな情報を吸収しているんですよ。その肌を緩めるということが、神経をゆるめるということにつながっていて睡眠の質を上げていくことにつながっています。
――神田さんは、現在6歳の娘さんのママでもありますが、社長業と子育てを両立することで大変だなと感じることはありますか?
ブランドを立ち上げて10年くらい経った頃に出産をしたんですが、仕事をしながらママになることを大変だと感じることはなかったですね。今はもう子どもがいることで制限されるというより広がるイメージだと個人的には感じています。
私、結婚後もしばらく子どもがいないときは、好き放題に仕事をして海外出張もしょっちゅうでした。娘が生まれてからもそれは変わらず、産後3ヶ月から出張に出ていたし、娘も国内外の出張に一緒に出かけて、結果一番のたび仲間に。たくさんの時間を一緒に過ごしました。
――それはすごく素敵な経験ですね。娘さんと一緒にどんな国へ行かれたんですか?
ブータン、アイスランド、フィンランド、デンマーク、タイ、中国、香港、台湾……。本当にいろんなところのロケに一緒に連れていきました。けっこう過酷な場所にも一緒に行っているし、長距離移動やトランジットが多い旅にも行っているんです。でも、小さすぎてきっと彼女はオーロラを見たこととか覚えていないと思う(笑)。
よく子どもを連れて海外なんて大変じゃない?! と言われるのですが、子どもを連れてアジア圏に行くと、みなさん子どもに対して本当に親切なんですよね。ブータンに行ったときはレストランのスタッフが子どもをあやしてくれて、タイではマッサージしている間に、おばさんが子どもを見ててくれました。今は気軽に海外旅行へは行けない時期ですが、アジア圏に子連れでいくと、本当にみんなが優しくて、いろんな気持ちの部分で助けてもらえて幸せだと思います。
――そういう体験をされると日本の子育て環境と比べてしまいますよね。
日本はドライな気がしますよね。日本は、社会が子どもを育てるという風潮が全くないし、核家族化が進み、コミュニケーションが自由に取れなくなっているという点もありますよね。大声を出したらダメ、泣かせたらダメ、あれもこれも社会の中では制限が多い。本当は日本ってみんな優しいはずだし、親切な国でもあるから、それがもっと子育てに対してもオープンになると、もしからしたらお母さんたちがもうちょっと生きやすくなるのかもしれないと思います。
これからの日本に、楽しく働いている女性のリーダーが増えていく発信が大事
――そういう世の中になるためには、何が必要だと思いますか?
私は長年オーガニックコットンを扱っているということもあって、自分を大事にするということをすごく大切にしています。でも今は、自分を大事にすることすらままならないような世の中だったりするのかもしれません。他人と比べての優越や、睡眠を削って家事をしたり働いたり。情報も多いので流されがちです。まずは「自分を大事にする」ということが大前提。そしてそれが何につながっていくのかということをみなさんがもっと知れたら良いなと思うんです。自己満足的な生き方ではなくて、自分に優しくして満たされているからこそ、他人に優しくできるということ。自分にベクトルが向いているだけではなく、社会に向かって進んでいく。余裕を持つことで、他人に優しくできたり、地球環境に良いものを選ぶ心の余裕ができたり、具体的なアクションを起こす第1歩になって、みんながそうなっていくことで社会が変わっていくような気がします。
うちのスタッフはママが多いし、女性しかいないので、みんなが安心して心地よく働ける環境を作っていくということを大事にしています。若いときのようにあまり無理をしすぎない。自分にも優しく人にも優しく、「許す」という文化が大事かなと思っています。私、「できないっていえる環境」を作ることも大切だと思っています。昔みたいにできないことを、できないと言えずになんとか帳尻合わせるような時代ではないし、得意なことを得意な人がやればいいだけ。自分は好きなことをやって、不得手な部分は人に任せる。そうすれば頑張れるし、好きなことは人の倍成果が出せると思います。チームとしても同じことが得意な人の集まりではなく、得意なものが違うほうがピタッとフィットします。
子育てで大事にしていることは、娘の意見を聞くようにしています。子どもだからと思わずに一人の人間として意見を尊重する。
あとは、仕事場で働く姿を見せながら育てていたことや、大人といることが多かったので、親以外のいろんな大人から教えてもらうこともよくしていました。親以外の大人から教えてもらった方が素直に聞けることもあるよねと思っています。
あと、人の感情や、物事のディテールを後から細かく説明するようにしているので、人の気持ちや痛みが分かるように育っていると思います。だからいいタイミングで、幼い娘がいいこと言って慰めてくれたり(笑)。あとはどんなに忙しくても、寝る前に娘といちゃいちゃしたり、語りあう時間を取りチャージすることが大事だと、お互いに自覚しています。
――神田さんが今後取り組んでいきたいことはなんですか?
「nanadecor」は、私が本当に伝えたいことを詰め込み、できる規模の中で趣味のような感覚で続けてきたブランドです。気がつけば親子3代家族ぐるみで通ってくださるお客さまや、買い物に来て長年の友人のようにパーソナルな話をしたり、悩みを話してくださったり、相談に乗ったりできるような関係を築けるお客さまがたくさんいらっしゃいます。「nanadecor」を通して同じ価値観のみなさんが安心してつながれたり、ストレスで逃げ場がないとき、誰かに話を聞いてほしいと思ったときに、「あそこにいこう」と思ってもらえるお店になるような活動をしていきたいです。そして今は、オンラインでも人と繋がれる時代になってきたのでこれまで以上に可能性が広がったと感じています。
――では最後に、MOTHERS編集部で、こんなことをしていきたいと思っていることはありますか?
世界で見ても日本の女性ってすごく忙しいんですよね。それこそ睡眠時間が一番短い。そしてママたちはマルチタスクに日々追われています。私はよく海外の友人たちに、「子育てをし、お弁当も作って、仕事もして洗濯も掃除もしてるの?」と驚かれました。
海外の女性は主婦能力が低く仕事能力がすごく高い。だからアウトソーシングが当たり前だったり、できないことは人に任せて当然と思える環境が自然とあるんですよね。
でも、日本人はそのバランスがすごく優れているから、仕事も主婦的能力も高くなんとかできちゃったりする。でも、その中でもうちょっと手が抜けたり、楽になれる方法や情報をMOTHERS編集部で発信していけたりしたらいいなと思っています。仕事も家庭もうまく両立できるような環境作りとか社会の在り方とか。日本は、楽しく働いている女性のリーダーが少ないと思うので、そのリーダー像をここで発信するのは重要な役割だと思います。