MOTHERS編集部 スペシャルインタビュー《四角 大輔》
MOTHERS編集部初のパパデスクとなった四角大輔さん。
現在は自然豊かなニュージーランドに移住し、パートナーと1歳の長男と一緒に自給自足の生活を送っていますが、もともとは音楽業界で10回ものミリオンヒットを連発する、名物音楽プロデューサーでした。そんな四角さんがいまいちばん夢中になっているのが「子育て」。
2022年9月に出版した『超ミニマル主義』(ダイヤモンド社)も、瞬く間に5度の重版に!
平日週3日、午前中だけしか仕事をしないという、究極の超時短ワークススタイルは子育てに出合ったからこそ生まれたのだそうです。
MOTHERS編集部を通じて、世のパパたちと子育ての素晴らしさを共有したいという思いを聞いてみました。
――まず、「超ミニマル主義」という考え方が生まれたきっかけを教えてください。
子どもの頃から変わり者で(笑)、常に「今何にいちばん感動する? どうやったらその時間を最大化できる?」と考えていたんです。大好きな釣りや野球をするために、宿題をする時間をどれだけコンパクトにできるか……というように。これまで一度も“ひまつぶし”ということをしたことがなくて、何をしていたかわからない“不明な時間”がとにかく嫌いで。
でも、そうポジティブに生きようとするルーツは、実はネガティブにあったんです。生まれる時に逆子でへその緒が首に巻きついて死にかけ、複数のアレルギーを併発して体は弱く、幼稚園も半分くらいしか通えず。気が弱く、社会性が身につかないまま小学生になり、学校でいじめられたんです。「生きるのって、こんなに苦しいんだ」って、小学生にして思ってしまったんですよね。
――「じゃあ、楽しい時間を増やそう!」と考えるのが、少年時代の四角さんのすごいところですね。
時間配分として、楽しい時間を増やせば苦しさが減るという単純な発想でした。たとえば野球では、どの「瞬間」がもっとも感動する? と、線ではなく点で考える。僕にとってそれは「バットの芯でボールをとらえる瞬間」だった。その瞬間にいきつくまでには、当然、膨大な練習時間がかかるわけです。だからその時間を確保するために行動する。幸せになるためには、大好きな瞬間のために時間をつかうしかないなと思っていました。
――その後、学生生活から社会人になるまではどのように過ごされたんですか?
高校3年生で1年間アメリカに留学し、さらに一年遅れで大学受験をして、二浪の歳で獨協大学の英語学科に入学。その後ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社しました。最初の2年は札幌で営業をして、その後はずっと東京で働いていました。素晴らしいアーティストとの出会いが続き、音楽を心から愛してしまい、15年音楽業界に身を置きました。
でも、学生時代に見た湖の美しさが忘れられず、いつか永住権が取れたら、ニュージーランドの湖畔に移住したいと決めていたんです。で、2009年に永住権を取得できたので移住したというわけです。周りの人はみんな驚いていましたけどね(笑)。
――ところで、ソニー・ミュージックに入ったのは、音楽が好きだったからですか?
実は、そういう訳じゃないんです。幼少期から学校も大人も嫌いで、社会に対して結構怒っていた。大学に入って「自然界と違い、人間社会ってなんでこんなに矛盾が多いのだろう?」と真剣に勉強してみると、原因がいろいろと見えてきた。社会課題を解決したいと、映像ジャーナリストを目指します。
NHKを第一志望として就職活動をしましたが落ちてしまいました。練習として受けていたソニー・ミュージックで内定をもらって。第二志望は、教員だったので「NHKに落ちたので、先生になります」っていったら、教育実習でお世話になった先生から、こんなことをいわれました。
「ただ勉強を教えるだけじゃなく、教壇から世の中を変えたいのなら、一度社会に出てから先生になった方がいいよ」と。それならば、レコード会社で社会経験を積もうと入社を決めました。でも、音楽には、教壇や映像と同じかそれ以上に社会を変える力があると気づいて、長く働いたんです。
――レコード会社は当時、夜中でも関係なく働くという時代でしたよね? でも四角さんは30代でシフトチェンジして、働き方を変えたんですね。
そうですね。20代のうちはうまくいかなかったけれど、30代になってからはヒットアーティストをプロデュースしつつ、どんなに多忙でもしっかり休んでいました。それは仕事術を極めて、徹底したタスク管理とスケジュール管理をしていたからこそなんです。
ニュージーランドに移住してから、自分がなぜミリオンヒットを10回も出せたのかということを、ずっと考えていたんです。メディア戦略やブランディング術については、高い評価をいただいていましたが、あるとき、編集者の方から「それ以外に、仕事術で何かやってきたことがあるんじゃないですか?」と聞かれたんですよね。よく考えてみるといろいろやっていた。「好きなことをする時間を作るため」に、業務効率を極限まで高めるべくいろいろな工夫をしていたんです。30代に入って、プロデューサーとして独り立ちするころ、さらに釣りの副業もはじめます。
――釣りの副業って何ですか?
釣り具メーカーがスポンサーについたんですよ。フライフィッシングの聖地といわれる、北海道の阿寒湖で釣りをしていたら「君、上手いね! 推薦するからオーディション受けてみて!」っていわれて(笑)。受けたら受かったんです。釣り道具のフィールドテストをしたり、釣り雑誌で原稿を書いたりして。地上波の釣り番組に出たこともありました。
本業でヒットを連発しながら、どうやってそんな時間をつくっていたかというと、独自の時短術をやっていたからなんですよね。「仕事の集中力を高めるためにどう健康を整えるか? 無意味な会議や飲み会をいかに欠席するか? どうすれば労働時間を短くし、休めるか?」とか、ずっと考えていて。
――なるほど! それでその時短術を『超ミニマル主義』にまとめたんですね。
そうなんです。子どもが生まれてから、子育てが何よりも優先順位が高くなったんです。会社員時代も、ヒットにつながる自分にしかできない仕事に集中するために、大胆に優先順位をつけていましたが、順位をつけるのって難しいですよね。でも、子どもは自分たち(親)がいないと、生きていけない。だから、子育ては優先順位の絶好のトレーニングになるんですよ。これまで断れなかったような仕事も、きっぱり断れたりとか。
――たしかに! 夜の会食とかは行かなくなりますよね。
そうそう。夜に活動していいことは一つもないですから。人間の身体って、狩猟採集時代から250万年間まったく変わってないんです。わずか200年ほど前の産業革命以降やっと、夜電気をつけて仕事ができるようになりましたが、狩猟採集時代は、暗くなったら活動をやめるしかなかったですよね。
文明の利器によって、自然の法則、身体の仕組みに逆らえるんじゃないかってみんな勘違いしているけれど、残念ながら無理なんです。脳の構造上、夜は集中力が下がるから非効率なだけでなく、健康やメンタルヘルスにも悪い。朝は気分がいいだけじゃなく、ホルモンの関係で集中力がすごいんですよ。この本に書いたことはすべて、身体の中の自然の摂理に従うという方法です。それがもっとも効率的なんです。
――お子さんの寝かしつけもされるんですか?
妻が寝かしつけるとおっぱいを欲しがるので、僕が担当していて。夜7時頃に息子と一緒に寝ます。僕は7時間寝れば自然に目が覚めるので、夜中2時頃に起きて仕事をします。息子は12時間以上寝るから、息子が起きる頃には、だいたい仕事が終わってるんですよね。ただ最近は、絵本を2時間近く読まないと寝てくれないこともありますが(笑)。
ママのひとり時間というと、みんなが寝静まったあとに……というイメージがありますが、だまされたと思って試してほしいのが、自分の寝る準備も全部終わらせて、子どもにくっついて寝ること。朝は、集中力を高めるホルモンが分泌されるので、その時間を使わないともったいないんです。夜やっていた作業を朝にやったら、短時間で終わらせられますよ。子どもと一緒に寝るという究極の癒しも得られますからね。サウナやマッサージに行くよりも、疲れが吹っ飛びます!
――見習いパパデスクとして、MOTHERS編集部でどんなことをしていきたいですか?
パパ初心者なので、まずはみなさんにいろいろ教わりたいです。がんばりたいのは、ひとりでも多くのパパを育児に巻き込むこと。世界的にも低い、日本の男性の育児休暇取得率を上げるのが目標です! 日本の育児休暇のシステムは世界一手厚いんですよ。国が、収入の約5〜7割という育児休業給付金をくれるんですから、条件(1年以上同じ職場で働いているなど)が合致するなら1年……せめて半年でも育児休暇を取得したほうがいいです。高い税金を払ってるんですからね。
いまの仕事に何の不満もない人はいないはずです。長期間の育休は、仕事をリセットしたり、転職を考える上でも、いいきっかけになるんじゃないかと。もし、いまの仕事を心から愛しているならば、1年休んでも必ず戻れるでしょう。
僕は、残りの人生を育児すべてにかけてもいいとさえ思っています。パパが育児に参加しないなんて、もったいない! 子どもを授かったことが奇跡だし、子どもの表情と動き一つ一つが感動の連続です。そんな奇跡を味わわずに仕事だけやっている場合じゃないって本気で思うんですよね。
育児に関わるとクリエイティブ力が確実にあがります。発想力と創意工夫力を問われるのが育児ですから、必ず仕事に活きます。そして、仕事で培ってきたスキル全てを、育児というあたらしいフィールドで活かせますから、いいことしかないですよね。上司が育休を取ってくれたら、部下も続く。育児をきっかけに幸せになる人が増え、それが社会全体に波及してくれたらいいなと思います!