close

2024.09.03

FAMILY/家族・子供

おこづかいが足りない #知りたい!みんなのお小遣い事情。

 

我が家の次男坊が小学3年生のときの話です。

ある休日に、次男がこしょこしょっと私に耳打ちしてきました。夫には聞かれたくないようで、小声で話しているつもりらしいのですが、なにやら興奮していて内緒話にしてはあまりにも大きな、こしょこしょの声でした。次男の口が私の耳の中まで入ってきそうなぐらいぐいぐい押してきて、うれしいを抑えられないのがわかりました。

「ちょっと、オレお買い物にいってくるね。いいこと考えた!」

彼がこう言ってきたのをはっきりと覚えています。

「え? どこに?」

と野暮なことを言う私に

「いいからいいから、すぐ帰ってくるから。」

一人で出るのを待ちきれない様子で答えました。次男の心と目線はもうすでにここにないことがわかります。それまで一人で買い物に行きたいなんて言ったことがなかったので何事かと思ったのですが、近所だから一人で行かせて~と言いながら、彼は流れるように玄関を飛び出していきました。私と夫は、なんだろうね、かわいいね、とクスッと笑ってしまいました。

 

それから15分ぐらいして次男が返ってきました。買い物をしてきたにしては何も持っておらず、その上半べそをかいていました。

私がどうしたの~とハグをしようとしたのですがかわされ、

「大丈夫」

と一言。それでも怖いことがあったのではないか心配になり、何度かと聞くと、またこしょこしょ話で私にだけ教えてくれました。今度の声は先ほどとう打って変わって元気がなく、ちゃんとこしょこしょでした。

「今日父の日だから、お酒を買いに行ったの。」

 

ええ~!!!

私はびっくりして声を上げました。

「それでどうしたの?」

「最初は、年がダメだって言われたんだけど、父の日だからお父さんにプレゼントしたいって言ったら、いいよって言ってくれた。」

もう、その時点で私は涙が止まらなくなっていました。

 

そもそも次男は、一人でどんどん行動できるタイプではないのです。放課後に行くサッカーの前にどんなにおなかが空いても、一人でコンビニにも入れないのです。

仕事中の私に、毎回のように

「おなかすいた~」

とメッセージがくるので、

「何か買って食べていいよ(^▽^)」

と返すのですが、きまって

「おみせに入るゆう気がでないよ~」

とメッセージが来ます。この「ゆう気」と書いてくるところがとてもかわいくて、今の次男の精一杯を見ているようで、私は気に入っています。

そんなやり取りをして、結局次男は何も食べずに我慢するのが通例です。そんな次男の性格を知っているからこそ、一目散に買い物に出て行った次男の姿は勇ましかった。パパを喜ばせるためなら「ゆう気」がわいたのだと、あとで教えてくれました。

 

「それで、お酒は買えたの?」

「ううん。おこづかいが足りなかったの。」

 

どっしぇ~!!! 後ろにひっくり返りそうになりました。

一生懸命な息子には申し訳ないけれど、このオチを聞いてあまりの愛おしさに笑ってしまいそうになって、それをごまかすために私は思いっきり彼を抱きしめました。苦しい苦しいといいながら、目に浮かんだ少しの涙を私のTシャツにこすり付けて拭いているのもわかりました。

 

そんなやり取りを夫は見てみぬふりをしてくれ、午後はのんびりすごしました。

やがて夕飯の時間になり、”いただきます”をするときに、次男が自分のパーカーのポケットから箱を取り出し、夫に

「父の日おめでと~!!」と渡しました。

 

「父の日おめでとう」っていいなあと感心しつつ、私はついビデオをまわします。喜びを表現するのが苦手な夫も少しほころんで「ありがとう」と言い、箱のリボンをほどきました。中から出てきたのは「靴下」でした。

「えっ、これを買いに行ってくれたの?」

今日の次男の買い物の結果をまだ知らない夫はびっくりしていましたが、この靴下に見覚えのある私は、笑いがこらえられません。次男はこう言いました。

「家の倉庫に落ちてた靴下だよ~!」

もうみんな大笑い、もとい、私は大泣き笑いです。

 

この落ちていた靴下というのは、長男が生まれる前に夫と2人で行ったグアム旅行の時に買ったものです。誰にあげるかも決まっていないのに、なんとなく現地でしか買えないような気がして買ったものの、誰にも渡らないまま13年以上が経過していました。買った私も存在を忘れていた靴下が、次男によって掘り起こされて父の日のプレゼントになったのです。

「新品見つけたんだよ! すごくない?」

次男は得意げです。

 

その食卓で、次男は今日の話を詳しく聞かせてくれました。

いつものおじさんのところにお酒を買いに行ったこと、最初はダメって言われたけど、頑張って理由を説明したら「あとでママと話すからいいよ。特別ね。」と買わせてもらえることなったこと、それなのにお小遣いが足りなかったこと、帰ってくる途中にちょっとだけ泣いちゃったけど、おじさんの前では泣かなかったこと、家で別のプレゼントを探したこと、棚をほじくっていいものを見つけた時のうれしさ、箱探し、リボン探し。

さらには

「YouTubeでお店みたいなリボンのやりかたもしらべたんだよ~」

とも。

 

感心しました。

よくお酒をプレゼントしようと思いついたね。

よく「ゆう気」をだして買い物に行けたね。

よくお店のおじさんに説明して情熱を伝えたね。

よくお酒を買えなかった残念な気持ちを切り替えたね。

よく靴下を見つけたね。

よくラッピングまでできたね。

よくそんなにもパパのことを喜ばせようと考えてくれたね。

 

たくさんのことを言いたかったけれど、夫が

「物よりも、値段よりも、限られた中で全力で動いてくれたり、上手くいかなくてもなんとか気持ちを伝えようとして考えてくれた時間が嬉しい」

というようなことを伝えていたので、私は何も言わずに次男の頭を何度も撫でました。

お小遣いがテーマの記事にそぐわないかもしれませんが、お小遣いが足りない時にお金やものにこだわらないことや、相手に気持ちを伝えることにまっすぐであることがこんなにも大切なのだと学びました。

 

今回のことで、子どもたちに少しお金の話をしました。

私には大きな後悔があって、それは今までお金のことを勉強してこなかったことです。子どもが生まれるまではお金のことをあまり考えていませんでした。時代の違いもありますが、親や周りの大人は子どもにお金の話をするのはなんとなく良くないというような感覚でいたのかもしれません。だからいざ自分が親になってみると、仕事や勉強量に対する報酬、物価の高さ、教育費、税金、自分が想像できていなかったお金に、困惑することが多々あるのです。

 

「自分がやりたいこと、買いたいもの」と「持っているお金、使えるお金」には、ギャップがあります。お金やもので気持ちを完全に満たすことはできません。かといって、生活をしたり家族を支えたりするお金は必要です。私は自分の後悔も子どもたちに伝え、お金について話しました。やりたいことを仕事にするのか、どんな仕事に就くとどれぐらいのお金になるのか、家は? 生活は? 税金は?

 

そういうことを、親が少しずつおしえていくことで、子どもたちにお金の意識が生まれるといいと思います。自分の頭で考え、自分の未来を想像しながら生きていけるように、おこづかいとの付き合い方を今も模索中です。

 

こうやってひとつひとつ子育てから学ぶ機会をもらい、自分をさらけ出しながら、親である私が成長させてもらっています。子どもは、紛れもなく大人たちの先生だと感じた出来事です。

須藤 暁子

医師、作家、2男児のママ。
子どもから学ぶ「育自」と「命の尊さ」を伝え支持を得る。

医師、作家、2男児のママ。
子どもから学ぶ「育自」と「命の尊さ」を伝え支持を得る。

DAILY RANKING