close

2024.04.23

FAMILY/家族・子供

親が楽しむことがまずは大事なのかも # “楽しく学ぶ”アイディア帳

仕事は趣味?

私は医師でありながら、医療倫理という分野で研究、教育に携わっています。パンデミック前は、毎夏子どもたちを連れてYale大に夏期講習を2ヶ月間教えに行っていたのですが、今年5年ぶりにまた行ってきます。

夫からはよく、「君にとっての仕事は趣味でしょ」とよく言われる私。倫理とは解決できない問題を自分なりに整理して考えること。きっと私が夢中になって一生懸命パソコンで論文を書いていたのだろう。嬉しそうに娘(当時1歳半)が私のマネをしている写真がある。

ようやく中学受験が終わった長男(12歳)から、彼自身が医師を目指すようになったのは「母が生き生き仕事をしていたから」と聞いた。もしかして、楽しく学ぶには、親も楽しく学んでいる姿勢を見せることが大事なのかもしれない。

わが家でよく考えるトピックについてと、最近あった嬉しいことを含めて紹介します。

動物倫理について考える

猫3匹、鳥1匹、金魚3匹を飼っているからか、私たちの家では動物倫理について話し合うことが多い気がします。実は倫理問題は医療だけではなく、日常生活でもよく遭遇します。

動物のいのちと、人間のいのち、どちらが重いのか。例えば1月に起きた海上保安庁の飛行機事故報道でも、子どもたちは人々が助かったのは報道され、預け荷物に入っていたペットについてのニュースが出ないこと、人間のいのちが当たり前のように優先されてしまうことに疑問を感じていたようです。

そういえば、数年前、目の前で交通事故に遭った野生アライグマを私たちが助けるべきなのか、助けを呼ぶべきなのかどうか話し合ったこともありました。子ども達の熱意に負けて自分で毛布に包んで獣医に連れて行くべきか悩んだのですが、結局Animal Controlに電話して捕獲してもらいました。

心配そうに、「アライグマさん、早く良くなるといいね!」と見送った次男(当時6歳)に後ろめたくて、私からは公衆衛生の面から殺処分された可能性については未だ話せずにいますが。そろそろ話そうかな。

正しい答えがわかりづらいことを一緒に考える。このことが、意味がある学びなんだと信じています。

娘の動物愛

特に娘(8歳)は動物が大好きですが、幼稚園の年長くらいから、肉をあまり食べなくなってしまいました。ある日家族で焼肉を食べていた時「ブタは何のために生きているのかな? 食べられるために生まれてきたの?」と、ブタ肉に全く手をつけられない娘が聞いてきました。話を聞いてみると、可愛がっている猫は食べないのに、同じいのちなのに、なぜ豚を食べてもいいのか悩んでいるようでした。

そこで、二人でインターネットを調べたり、図書館で調べたりしているうちに「アニマルウェルフェア」という言葉と出会いました。生き物がただ肉になる為だけに育てるのではなく、動物本来の生育環境で愛を持って育てる生産者さんがいることを知り少し落ち着いたようです。

一緒にスーパーに行くと放し飼いの卵を買おうとする(普通の卵の倍するけど)。牛乳や肉などもラベルを気にするようになった。「楽しく」勉強になったのかわからないが、彼女にとっては「おいしく」ごはんが食べられるようなるために必要なことだった。

娘はこのモヤモヤを随分長い間持ち続け、去年11月に調べたこと、感じたことを『ブタは何のために生きるのか』という作品にまとめ「子どもノンフィクション文学賞」に投稿しました。結果、彼女は優秀賞(2位)を受賞しました。

娘の作品はそのうちアップされると思います(※)。

※北九州市立文学館ホームページ:第15回子どもノンフィクション文学賞作品集

 

母として、娘がこのような気持ちを表現できたことは涙が出るほど嬉しかったです。元々書くことが大好きで、一人で絵本を作ったり、絵日記も学校のものとは別に書いたりして、変わった娘だとは思っていたけれど。どんどん書いていくうちに、原稿用紙に6枚にもなっていた。清書する時力がこもり過ぎて手が痛くなり、私が「もういいんじゃない?」と言っても、「最近ママは本を買ってくれないから、図書カードが欲しい!」と張り切る姿は、まるで何かに取り憑かれているよう。

締め切りギリギリで何とか清書を終え、母の私は誤字脱字チェックする間もなく、何を書いたのかよくわからないまま、仕事から帰宅してすぐに規定の通りに表紙をつけさせて、午前中に確実に着く宅急便タイムサービスで送った(送料は2000円くらいと高い!)。どうか、2000円の価値があってくれますように。娘がこれで納得しますようにと願いを込めながら宅急便の店員に託した。

だけど、まさかの授賞が決まり、よく読まないまま送ってしまった私は、恥ずかしながら、主催者に事情を話し、PDFを送って頂き、ようやくちゃんと読むことができた。

最後、「いのちにはどっちがえらいとかないと思う。しんかの本で、今の人間はホモ・サピエンスとよばれているのは、「かしこい人間」といういみがあるかららしい。だけど、今まで多くの命を奪いながら人は生きてきた。ぜつめつしてしまった生きものもいる。わたしにはそんな人間が「かしこい」とは思えません。本当に「かしこい」人間になるにはどうしたらいいのでしょう。しょうらいじゅういさんになって、多くのいのちをみまもりながら考えたいと思います」と綴られていた。母として、娘がこのような気持ちを表現できたことは本当に嬉しかったし、学ぶことの意味を考えさせられました。

子どもの勉強については「放任」すぎだし、「趣味のように楽しく仕事」をしているダメな母かもしれない。夫からも中学受験の神様みたいに崇められている「〇〇ママ」について諭されることは何度もあった。だけど、とてもなれる性分ではない。日本で大事とされている読み書き算盤も、楽しくさせてあげる術をアメリカ育ちの私は持っていないし、正直私にも苦行でしかない。だけど、今回の授賞で子どもに勉強を強いるより、まずは親が学ぶ事を楽しんでいる姿を見せることが、学ぶきっかけになるのかもしれないと感じました。

高橋 しづこ

帰国子女の産婦人科医師で3児のママ。
自ら絵本を描きながら、いのちを見つめる。

帰国子女の産婦人科医師で3児のママ。
自ら絵本を描きながら、いのちを見つめる。

DAILY RANKING