2023.02.14
【前編】「賢さの秘訣は、食にアリ!」東京で注目される人気私立小「東京農大稲花小学校」校長先生に聞く、“最新の食育”事情!
“東京農大稲花小学校”4年生に実施したOisix特別授業を終えて
「冒険心の育成」を教育理念に掲げ、多様な体験型学習を実施している東京農業大学稲花小学校(以下、稲花小)。東京農業大学の小学校とあって、特に「食育」に力を入れていることで知られ、小学校では珍しく、生き物や食、環境といった身近なテーマを専門的に追究しています。ここ数年の小学校受験を目指す方々の中では、必ず人気上位に稲花小の名前が上がり、倍率は10倍を超えるとも言われるほど大人気の学校です。
そんな話題の学校にて、2022年11月、サステナブルリテール(持続可能型小売業)に積極的に取り組む、食品ECのオイシックス・ラ・大地が特別授業を開講し、MOTHERS編集部でも取材をさせていただきました。その記事にも大きな反響が!
2019年4月に開校した同校の記念すべき第一期生でもある4年生、2クラスに向けての特別授業でした。このプロジェクトは「Oisix × Z世代 未来の食プロジェクト」として、未来を担う子どもたちが、自分でSDGs課題を解決できるという実体験を得て、それを将来に役立ててほしいという願いのもとに開講されました。
先日実施された特別授業の様子。
講師は、Upcycle by Oisix(アップサイクルバイオイシックス)ブランドマネージャーの三輪千晴さんと、MOTHERS編集部特別顧問でもあり、オイシックス・ラ・大地のBrand Director/People’s Adviserでもある世永亜実さん。
今回は講師を務めたおふたりに加えて、我がMOTHERS編集部の編集長 小脇美里が、稲花小学の校長 夏秋啓子先生に大人気校が行う「最新の食育」についてインタビューをしてきました。
稲花小学校独自の食育とは?
小脇 先日、MOTHERS編集部で公開させていただいた特別授業の記事もとても反響がありました!稲花小のみなさんを見ていると「賢さの秘訣は食にアリ!」ということなのではないかと思いまして、夏秋先生にお伺いします。読者のみなさんも、稲花小ってどんな学校なんだろうと興味津々だと思うんです。ズバリ、ほかの学校との違いはどんなところですか?
夏秋校長 小学校義務教育のカリキュラムの上に、稲花小の“味付け”をしてくださいということを、先生方にお伝えしているんです。東京農大は食と農、環境、そして生命科学の学校です。食べ物や生き物って、実は小学生が大好きな分野なんですよね。ですから、“味付け”は東京農大でやっていることを使いながら、田植えをしたり稲刈りをしたりしながら、「食」とそれを作り出す「農」に関心をもたせる、体験させるということを行っています。
小脇 素晴らしい体験ができますね。
夏秋校長 今回のOisixさんのように、農業や食と関係する企業の方がいろんなリソースをもっておられるので、それを活かして専門家に特別授業をしていただけるのも、特徴のひとつです。授業の中で、農大の教授が専門的な話をしに来てくれることもよくあるので、子どもたちはいつでも学びの意欲が高いなと感じています。小学校のカリキュラム範囲を超えて、各業界の最先端はどうなっているのかを知ることは、子どもたちも喜びますし、家庭で授業の話を聞いた保護者の目が開くこともあります。
小脇 学校で子どもが習ったことから、保護者も新しい視点が広がるのはいいことですね。
夏秋校長 Oisixさんの授業でもお願いしたんですけれど、ほかではやっていない“稲花小Special”として味付けをした授業をしてくださいと。そうすることで授業の内容も深くなるし、面白くなると思うんですよね。
三輪 稲花小の4年生がどのくらいの知識をもっているのかを探りながら、準備しました。やはり稲花小の皆さんは知識が豊富! 「さて、何を掘り下げよう?」と考えたときに、フードロスはまだ深くは学んでいないと聞いたので、食品業界としてはこうなっている、家庭ではこうだよね……といろいろな視点から伝えられるように工夫しました。
夏秋校長 作ることと食べることは1~3年生でやってきましたが、たしかにフードロスについては4年生まであまり学ぶ機会がなかったです。これはいいチャンスだと思いました。さらに学びを広げようと落ち葉でたい肥も作り始めましたよ!
世永 私たちが思っていたよりも、子どもたちの知識が豊富で、私たちの方が教えてもらうことも多かったです。SDGsへの意識は大人よりも、子どもの方がよっぽど高いなと感じました。
“自校式給食”は大変だけれど、家庭ではできないことが叶う
夏秋校長 自校式給食を実施している学校は少ないと思います。やってみると、すごく大変だなとも感じるのですが、授業の終わる時間に合わせて温かいものを提供できますし、旬のものを取り入れたり、東京農大の卒業生が作った農作物や食品を使ったりもします。給食を委託している業者さんと一緒に自由なメニューを作ることもできるのは、我が校の強みですね。
小脇 自校式の給食は珍しいと伺いました。まさに稲花小ならではですね! ほかにはどんなメリットを感じますか?
夏秋校長 他校に合わせて食材を揃えたりするのではなく、学校独自の食材が使えます。たとえば、おうちで使わないようなジュンサイや鯨なども出ます。魚の切り身やレバーなど、子どもが好まないかもしれない食材をあえて出していろいろな味、味覚を楽しんでもらいたいなと思っています。
三輪 ジュンサイはおうちでは、なかなか出さないですね(笑)。
夏秋校長 私自身東京農大で長年さまざまな研究をしてきたので、そのこともうまく子どもたちに伝えられたらなと常々考えています。実は、秋田のジュンサイの畑に実際に行って、写真を撮ってきたんですよ。給食に出たときに子どもたちに見せながら、実際の農家さんの話を伝えたら子どもたちも興味を持ってくれると思って。おうちでは子どもが食べないかも……と思うものはなかなか作らないですよね。学校で普段食べないような食材にふれて、無理には食べさせませんが子どもが自ら「食べてみよう!」という気持ちを持てるような環境を作ることが大切だと思っています。
世永 食べたことがあるかないかで、その子の人生の豊かさにつながるような気がしています。親として責任を感じながら、日々食べさせているんですけれど……。
夏秋校長 もちろん、1年生や2年生でジュンサイを食べても忘れちゃうかもしれないけれど、大人になって何かの拍子に思い出してくれたらいいかなと思うんですよね。
小脇 楽しく食べた記憶や、初めての経験って子どもたちの記憶にちゃんと残っている気がします。ちなみに夏秋先生はバナナの研究も専門ですよね。バナナが出たときは子どもたちに何を伝えるんですか?
夏秋校長 バナナは何百種類もあるんですよ。フィリピンに調査に行ったときは、1日に11種類のバナナを食べたことがあるんです。生食用、調理用という分け方だけでなく、小さいのや酸っぱいのもあることや、インドネシアにはあずき大の種が出てくる種アリのバナナもあるよ……なんてことを話すんです。
世永 みんな子どもたち、そういう話、好きそうですもんね!盛り上がる様子が想像できます。
小脇 おうちに帰ってから「種アリバナナって知ってる?」って話したりするんでしょうね。
夏秋校長 まさにそうですね。子どもたちは目をキラキラさせながら、話を聞いてくれます。机上の学びだけでなく、やはり体験するということはとても大切だと思っているので、例えばアップサイクルについてOisixさんの授業で学んだので、3月のメニューに「エコふりかけ」として、出汁をとった後のこんぶを使ったふりかけやブロッコリーの茎などを使ったサラダが出てきます。そうすることで、習っただけで終わらずに、給食で出てくると子どもたちも腑に落ちるのではないかと考えています。
世永 2回目の授業のときに、子どもたちが「この前、給食室に残食はどうなっているのか、野菜の切れ端はどうなっているか聞きに行ったんだよ」と教えてくれました。ちゃんとアクションを起こしてすごいですね!
夏秋校長 そうなんです。残食はもともと少ないのですが、子どもたちが自ら給食室に行き、栄養教諭に質問をしていました。そこで管理栄養士さんたちも何かできないかと考えてくださり、お出汁をとったあとのじゃこでふりかけができるね……という流れになったんです。
小脇 子どもたちが自発的に学ぶ姿勢が素晴らしいですよね。「給食の先生に聞きに行こう!」って、やっぱりこの学校で4年間過ごしたからこそ身についていることですよね。学校の教育理念として掲げていらっしゃる「傾聴力」と「発信力」の両方を兼ね備えた子どもにまさに育っているということでしょうね。
夏秋校長 そうだととても嬉しいです。まだ新設校で4年生までしかいない分人数も少ないので、子どもたちや先生もお互いをよく知っていて、話しやすい環境ということも大きいかもしれません。授業のときには“傾聴力”と“発信力”というふたつを課題にしているので、質問は常にたくさん出ますね。
三輪 発信力が特にすごいと感じました。みんな小学生とは思えないほどプレゼンテーションが上手でびっくりしました!
「なぜ?」が止まらない子どもにとことん専門家が答える!
夏秋校長 先日、東京農大の江口文陽学長が「きのこ食育ミニ講義」と題して、1年生に授業をしてくれたんです。「きのこは森のお掃除屋さん」とか「お腹のお掃除もするんだよ」なんて話していたら、子どもたちから「どうしてきのこはみんな、傘のような形をしているの?」と質問があったんです。
小脇 それは専門家じゃないとすぐに答えられないかもしれないですね。
夏秋校長 そう。江口学長は専門だから、「それは下から風が巻き上がって、きのこの胞子が遠くまで飛ぶように、こんな形なんだよ」と答えてくれました。すると別の子が「傘じゃない、こんな形のキノコもあります!」と次々に質問が出るんですよ。でも、専門家なのでひるまずにとことん質問を拾ってくれるんです。
世永 たしかに、はぐらかさずに答えてもらえるならば、子どもたちも質問しやすいですね。
夏秋校長 そうなんですよね。子どもは質問を聞いてもらえるという気持ちがあれば、どんどん質問するようになるんです。その後の保護者会のときに、2.5キロもあるなめこの菌床をひとり一つ持って帰ってもらって、自宅でもなめこを育てていただきました。なかなかそんな学校はないですよね(笑)。でも、保護者の方も楽しんで育ててくださって、「毎日、なめこ汁です」なんておっしゃっていました。
世永 この前の授業で、ご家庭で課題をやってくださったんですが、保護者の方も楽しんで参加してくださった様子がわかりました。この学校を保護者の方も一緒に作り上げているという感じがしてとても素敵だなと思います。小脇さんともよく話すのですが、親として子どもが学校でやっていることに参加させてもらえるって実は本当に幸せなことだよねと思っています。子どもと学べる“ワクワク感”ってすごく貴重ですよね。
夏秋校長 学校を一緒に盛り上げてくださる方という理想の保護者像を、説明会でもお話ししているのですが、もともと食や農に関心のある方が多いので、なめこ菌床を持って帰っても、楽しんで育ててくれますね。春休み前に、大学の食品加工の教授から豆腐のつくり方の授業をしてもらったんですね。手作り豆腐のキットをお渡しして、春休みに作ってくださいと伝えたら、任意だったのにレポートがたくさん提出されました。中には、さらに進化させてこんな豆腐を作りました! とか、豆乳の種類を変えたら味が変わりました……と保護者の方がハマってしまったなんて感想もあったんです。親子で楽しんで取り組んでくださるのはありがたいですね。
小脇 まさに生きた教育ですね。保護者と連携しての教育は今の時代だからこそ、さらに大切になってきますよね。
夏秋校長 コロナ禍以降、子どもたちのために時間を作ろうという保護者が増えたように思います。以前のように会社だけ、仕事だけという感覚の方が少なくなった印象を受けていて、保護者と連携した教育が実現しやすいのかもしれませんね。
小脇 稲花小はアフタースクールも充実していますし、共働き家庭も多くいらっしゃるんでしょうね。実際に私の周りで、働いているから小学校受験は諦めていたという方も稲花小のお話を聞いてトライしてみたくなったという人も多いです。
夏秋校長 そうですね、うちの学校の保護者の方は働いている保護者の方はもちろん、下に小さい兄弟がいたり、介護があったり、パートナーが単身赴任されている方など、お忙しい家庭が多いと思うんです。それでも、子どもと向き合う時間はとってくれているのでうれしいですね。
後編は【こちら】
文:上紙夏花